架構と庭
空間の揺らぎが生む内外の境界面を拡張する>新建築住宅特集2021年12月号-かたちの決め方-骨格とディテールを繋ぐアイデア
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東京都新宿区の密集住宅地に建つ鉄骨3階建ての住宅である。間口が狭く奥に長い敷地に、わずかに雁行するボリュームの繋がりによって、4つの小さな庭が囲み14の隙窓を介して、内部と外部の関係性が多様で豊かになる可能性に注目した。
奥行き方向に長い敷地境界の両側から最小限の離隔を取り、さらに外壁を任意に300mmまたは450mmセットバックすることで、内に向かって窪みのある平面とした。外壁のズレで生じる裂け目が窓となり、その開口部を上階に行くに従って少しずつ広げていった。主要構造である柱と梁は全て100x100mmのH鋼で門型に組み、等ピッチで並べ3層に積み上げた。内部を最大化するために顕しとした構造フレームの連続が揺らぎを生み、空に向かって開く窓と相まって、徐々にほどけたトンネル状の空間の積層となった。
この住宅が持つ自律的な空間構成と抽象性に対し、外部と接点を数多く持ち全方向に開いたことが、結果として非常に体験的な空間を生み出した。居場所によって様々に質が変化し、また時間の移ろい・歩いたり佇んだりする動作・眼差しが向く先によって、常に生身の感覚に働きかける具体的な経験に接続することになった。それは森の中にいる体験に近いと言えるかもしれない。程よく囲まれた安らかな鈍感覚と、周りのわずかな変化に反応する鋭い感性が、常に隣り合うことが活き活きと住むことだと気付かされる。内と外の境界面に住み手がもっと能動的に関わり、自ら関係を作り上げることで、空間認識は広がったり閉じたり遠くまで及んだり、実に変化に富むことを示唆してくれた。
建築は構成や秩序によって空間の強度を獲得する一方で、敷地を取り巻く環境とその変化にも向き合う柔らかさがなければならない。完全に外界から独立した孤高の振る舞いや、コンテクストに頼った素直な応答とも異なる、自律性と他律性の間にこそ、真の意味で建築は豊かになれるのではないだろうか。
(Photography : Anna Nagai)
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