二心柱の家
2つの中心に展開する多層空間>新建築住宅特集2022年3月号-木造の魅力-木をめぐる建築家たちの挑戦
都内の住宅地に建つ木造総2階建ての住宅である。
2本の独立柱の周りに架かる計12枚の床をさまざまなレベルに配して空間を繋ぐことで、狭小敷地ながらも内部空間に立体的な奥行きを生む。矩形の平面の内側に独立柱を2本配置し、この二心柱と外壁で囲まれる6象限2層分の床面を、4つのレベルに設けた水平の梁(土台含む)に任意に架け渡すことで、多様なスケール感の小空間が数珠繋ぎに積層する。土間をもつ低い天井の玄関と高天井のアトリエが隣り合い、1階のホールと寝室は同じ広さで気積が大きく異なる。2階ホールはフラットな天井下にあり、一方隣のワークスペースは屋根まで吹き抜ける。低いキッチンは半層上げることで視界が階下に広がり、大屋根によっておおらかに包み込まれるリビング・ダイニングは上方に意識が向かう。加えて半屋外のようなインナーテラスや陽だまりの出窓・傾斜天井のロフトへと、空間が伸び縮みしながら緩やかに連続することで、さまざまな場所性を内包する全体がかたちづくられた。
構造体はすべて仕上げとして内部に現しとした。柱と間柱、梁と根・垂木の強弱は空間の力学を視覚化し、架構の純粋さや力強さ・美しさがシンプルに顕在化した。またこの建築の小ささ故に、通常壁内に隠蔽される深さ10cm余りの僅かな空間が内部化することによる恩恵を最大化することができた。内部空間の拡張は、外との心理的な距離も縮めることとなり、さまざまな方角や高さに設けられた窓と相まって、家のどこにいても外の環境の微細な変化に意識が及ぶことになった。また敷地形状に合わせた平面グリットは、縦840mm、横950mmにチューニングし最適化しており、既知の均等モジュールにはない僅かな方向性が発現し、この建築にいっそうの広がりをもたらした。
立体的に柱梁が交錯し、内部がひだ状に広がる空間は、この家の住み手であるネコにとっても居場所をつくり出している。ヒトとネコの暮らしを等価に取り扱い、家具的な設えに頼らない建築空間の作法によって統合させることで、都市型の共生住宅のひとつのモデルが垣間見えた。また、汎用性の高い構造・工法でありながら、柱とそれを取り巻く床の配置のみによって、新たな体験を喚起する空間のポテンシャルを発掘するモデルにもなり得たのではないだろうか。
(Photography : Anna Nagai)
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